古層のカミ シャグジ(宿神、守宮神)
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信州諏訪に諏訪大社がある。この地方は縄文の狩猟文化をいまだ色濃く残している。諏訪大社で六年に一度行われる御柱祭(おんばしらまつり)では、森から大木を切り出し、氏子たちが、その大木に跨がって山を滑り降りる神事が執り行われている。タマの宿った巨大なご神木と男たち、狩人の勇気がこの祭の真骨頂だ。この祭では夥しい鹿や猪などの森のサチがカミに奉納されている。
この地方には塞の神(さいのかみ)、道祖神などが里ごとに多く祀られている。実はその中にシャグジと言われる名もない古層のカミが含まれているのだ。シャグジは端的にいうと樹木の聖霊らしい。ジャグジは彼岸からやって来て人びとの技・技量を助けてくれるカミと言われる。現代でもシャグジは、芸能や職人のカミとしての形を変えながら生き残っている。能楽のカミはシャグジであり、刀鍛冶などが祀るカミもその古くはシャグジに違いない。
シャグジの御神体として祀られているのは陽根状の石である。このカミは、縄文期のカミらしく生殖に関係するようだ。諏訪から名古屋方面に行くと恵那市がある。恵那とは胞衣(えな)、胎盤のことである。人は、外界に閉ざされた子宮の中で十月十日を、じ っと過ごし成長する。これは前述した折口信夫の「容れ物があつて、タマがよつて来る。さうして、人が出来、神が出来る」ことと同じではないか。この地方では今でも子どもが誕生するとこの胞衣を模した扇子と綿で作ったオブジェを神社に奉納しているのだ。今ではほぼ忘れられたシャグジというカミが、日本書紀や古事記にあらわれる有名な八百万のカミたちの古い形を示していることは興味深い事実だ。
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神仏オブジェ陽根 八坂神社 松本長野