賀茂真淵が本居宣長に伝えたことでもう一つ重要なことがある。それは「すべては源氏ですよ」であった。源氏物語のキーワードである「もののあわれ」とは「事やものに触れて深く心に感ずること」とされている。源氏物語は光源氏と姫たちの恋愛小説である。王朝時代には「色好み」が流行していた。和歌の世界は、カミとの交流の言葉「祝詞」を起源とするが、道徳的、道義的世界ではなく、自然な恋人たちの気持ちを表現する言葉でもあった。おそらく男女の情愛の世界の果てに、古い日本のタマ(=カミ)の世界が拡がっているのかもしれない。源氏物語は深い世界だ。おそらくこの作品そのものが日本史上の稜威であり、その中の「もののあわれ」も作品上の稜威かもしれない。古いタマ(=カミ)の世界では、彼岸から自然に「産む=なる」ものとして、さまざまなものがカミの力でこの世に現れるのである。誕生、恋愛、結婚と男女の関係の推移の中に現れる情感の中に日本の秘密が隠されているのかもしれない。
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